大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成8年(ワ)16463号 判決

千葉県柏市あけぼの一丁目一番三号

原告

村上一男

右訴訟代理人弁護士

池谷昇

東京都豊島区池袋三丁目二〇番八号 田川荘一階

被告

森口和晃

栃木県小山市駅東通一丁目六番三号 渡辺ビル一階

被告

永岡忠治

東京都練馬区桜台二丁目五番四号 コーポやまと二〇三

被告

近藤昌人

東京都荒川区西尾久三丁目一六番八号 ロイヤルハイツリブラ一階

被告

川田静子

埼玉県川口市長蔵一丁目四番一二号

被告

佐藤一郎

埼玉県草加市氷川町一四一四番地二

被告

鷺島誠一郎

群馬県桐生市末広町四丁目一一〇番地

被告

小倉毅

北海道札幌市北区北三〇条西四丁目二番七号 拓邦ビル一階

被告

川人誠司

埼玉県東松山市松葉町一丁目四番四号

被告

遠藤照光

栃木県下都賀郡国分寺町医大前三丁目二番一四号

被告

関根準司

神奈川県横須賀市追浜町二の二〇

被告

山崎磨智

滋賀県長浜市春近町二二〇-二

被告

矢野宏一

新潟県新潟市小針山四丁目三二番地 アメーヌ一階

被告

南場正俊

東京都新宿区西新宿七丁目一番八号 ヒデノビル三階

新宿カイロプラクティックセンター内

被告

宮崎伸宣

被告ら訴訟代理人弁護士

水戸守巖

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告らは連帯して、原告に対し、三億四〇〇〇万円及びこれに対する平成八年一〇月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、原告が被告らに対し、左記の理由により、損害賠償を選択的に請求した事案である。

1  原告の従業員であった被告森口和晃、同永岡忠治、同近藤昌人、同鷺島誠一郎、同小倉毅、同関根準司、同山崎磨智、同南場正俊及び同宮崎伸宜ら九名が、カイロプラクティックの学院及び協会を設立、参画して競業行為等をしたことは、雇用契約上の義務に違反する行為であり、その余の被告らが競業行為等をしたことは、右被告ら九名の違法な行為の幇助であるとして、右被告ら九名に対しては債務不履行に基づく、その余の被告らに対しては不法行為に基づく損害賠償請求

2  被告らが、右各行為をしたことは、原告に対する共同不法行為であるとして、不法行為に基づく損害賠償請求

二  争点

1  債務不履行及び共同不法行為の成否

(原告の主張)

(一) 原告

原告は、昭和四八年に、カイロドクター(整体師)の養成とカイロプラクティック施術及び整体療法の研究のために、「村上整体専門学院」(東京カイロプラクティックカレッジ)(現在の名称「村上整体専門医学院」。以下「村上整体学院」という。)を設立した。

なお、原告は、「学校法人村上学園」(以下「村上学園」という。)、「日本健康ビジネス専門学校」を設立し、また、「有限会社腰痛センター」を経営している。

原告は、村上整体学院の卒業生に「カイロプラクティック・オブ・ドクター」の称号・資格(以下「カイロ師資格」という。)を認定し、その認定資格を有するものを中心にして「全国カイロプラクティック師会」(以下「全国カイロ師会」という。)を組織し、その理事長として、カイロプラクティック療法・整体療法の日本における公認化・法制化のために奔走している。

(二) 被告ら

被告らは、以下のとおり、いずれも村上整体学院においてカイロドクターとしての専門教育を受けて卒業し、さらに原告からカイロ師資格を認定され、その資格をもとにして、「整体院」「カイロプラクティックセンター」等の名称で施術所を開設し、カイロプラクティック療法・村上式整体術・整体療法の施術(以下「村上式整体療法」という。)を業としている。

(1) 被告森口和晃(以下「被告森口」という。)

被告森口は、昭和六一年七月村上整体学院を卒業して、原告からカイロ師資格の認定を受けて、全国カイロ師会の会員となり、昭和六一年八月原告に雇用され、当初は池袋腰痛センターで勤務し、昭和六三年には、同センターの院長となり、平成五年一月から村上整体学院の講師となり、平成六年七月一日からは同学院の学院長として、村上整体学院の経営に関与してきた。また、平成元年四月から平成七年一二月二三日まで、全国カイロ師会の専務理事に就任していた。

同被告は、平成四年一〇月ころより、東京都江東区において「皇漢堂整体院」と称する施術所の経営を開始し、平成七年一〇月ころから、東京都新宿区において「新宿カイロプラクティックセンター」と称する村上式整体療法の施術所を開設している。

(2) 被告永岡忠治(以下「被告永岡」という。)

被告永岡は、昭和六三年七月村上整体学院を卒業して、原告からカイロ師資格の認定を受け、全国カイロ師会の会員となり、平成元年四月原告に雇用され、村上整体学院の講師として平成七年一〇月まで勤務した。また、平成四年九月からは、全国カイロ師会の理事に就任していた。

同被告は、平成元年栃木県小山市に「永岡整体院・小山カイロプラクティック研究所」を開設して、村上式整体療法の施術を行っている。

(3) 被告近藤昌人(以下「被告近藤」という。)

被告近藤は、平成七年三月に村上整体学院を卒業して、原告よりカイロ師資格の認定を受け、全国カイロ師会の会員となり、平成六年四月に原告に雇用され、平成七年三月まで池袋腰痛センターに勤務していた。

(4) 被告川田静子(以下「被告川田」という。)

被告川田は、原告からカイロ師資格の認定を受けて全国カイロ師会の会員となった。

同被告は、平成四年ころから、東京都荒川区において「荒川カイロプラクティック研究所」と称する村上式整体療法の施術所を経営している。

(5) 被告佐藤一郎(以下「被告佐藤」という。)

被告佐藤は、平成二年三月村上整体学院を卒業して、原告からカイロ師資格の認定を受けて、全国カイロ師会の会員として入会し、平成二年四月から稲毛腰痛センターに勤務していた。

同被告は、平成四年三月から、埼玉県川口市において「東川口整体院」と称する村上式整体療法の施術所を開業している。

(6) 被告鷺島誠一郎(以下「被告鷺島」という。)

被告鷺島は、平成元年三月村上整体学院を卒業して、原告よりカイロ師資格の認定を受け、全国カイロ師会に会員として入会し、平成六年四月から平成七年一〇月まで原告に雇用され、村上整体学院の講師として勤務していた。

同被告は、平成四年三月から、埼玉県草加市に「草加整体院」と称する村上式整体療法の施術所を開設している。

(7) 被告小倉毅(以下「被告小倉」という。)

被告小倉は、昭和六三年三月村上整体学院を卒業し、原告よりカイロ師資格の認定を受け、平成二年四月から平成七年七月まで原告に雇用され、村上整体学院の講師として勤務していた。

同被告は、平成元年四月群馬県桐生市に「小倉整体院」と称する村上式整体術の施術所を開設し、その後古河市内に「古河整体院」を開設して、村上式整体療法の施術を業としている。

(8) 被告川人誠司(以下「被告川人」という。)

被告川人は、平成元年三月村上整体学院を卒業し、原告よりカイロ師資格の認定を受けて全国カイロ師会の会員となり、池袋腰痛センターに勤務していた。

同被告は、平成七年札幌市に「川人整体院」と称する村上式整体療法の施術所を開設している。

(9) 被告遠藤照光(以下「被告遠藤」という。)

被告遠藤は、平成二年三月村上整体学院を卒業して、原告よりカイロ師資格の認定を受け、全国カイロ師会の会員となった。

同被告は、平成二年一〇月から、埼玉県東松山市に「ニューライフ整体院・ヵイロプラクティックオフィス」と称する村上式整体療法の施術所を開設している。

(10) 被告関根準司(以下「被告関根」という。)

被告関根は、平成四年三月村上整体学院を卒業して、原告よりカイロ師資格の認定を受け、全国カイロ師会の会員となり、平成五年一〇月から平成七年一〇月まで原告に雇用され、村上整体学院の講師として勤務していた。

同被告は、平成四年四月から「自治医大整体院・関根カイロプラクティック研究所」と称する村上式整体療法の施術所を開設している。

(11) 被告山崎磨智(以下「被告山崎」という。)

被告山崎は、平成四年三月村上整体学院を卒業し、原告からカイロ師資格の認定を受け、全国カイロ師会の会員となり、平成四年三月から平成八年三月まで原告に雇用され、村上整体学院の講師として勤務していた。

(12) 被告矢野宏一(以下「被告矢野」という。)

被告矢野は、平成四年三月村上整体学院を卒業し、原告よりカイロ師資格の認定を受け、全国カイロ師会の会員となった。

同被告は、平成四年四月から、滋賀県長浜市に「ライフエイド整体院」を開業して、村上式整体療法の施術を業としている。

(13) 被告南場正俊(以下「被告南場」という。)

被告南場は、平成二年三月村上整体学院を卒業して、原告よりカイロ師資格の認定を受け、平成二年四月から平成七年一〇月まで原告に雇用され、村上整体学院の講師として勤務していた。

同被告は、平成三年四月から新潟市に「新潟中央整体院・なんばカイロプラクティックセンター」と称する村上式整体療法の施術所を開設している。

(14) 被告宮崎伸宜(以下「被告宮崎」という。)

被告宮崎は、平成五年三月村上整体学院を卒業して、原告よりカイロ師資格の認定を受け、全国カイロ師会の会員となり、平成四年三月二一日原告に雇用され、池袋腰痛センターに勤務しつつ、村上整体学院の講師として平成七年一〇月まで勤務していた。

(三) 雇用契約

平成七年夏ころ、被告森口は、村上整体学院の学院長及び全国カイロ師会の専務理事に、被告永岡は、村上整体学院の主任講師及び全国カイロ師会の理事にそれぞれ就任しており、また、被告近藤、同鷺島、同小倉、同関根、同山崎、同南場及び同宮崎ら七名も、原告との間に雇用契約があった。

ところで、特定の事業を営む雇用主に雇用されている従業員は、労働契約上の附随義務として、競業避止義務を負い、また、業務上知り得た事業主の有用な技術上・営業上の秘密・ノウハウ・秘訣・情報をみだりに他に開示したり、これをそのまま使用して、自己の利益を図り、雇用主に損害を与えたりしてはならない義務を負う。また、退職・退任による雇用契約終了後、信義則上、一定の範囲で、その在職中に知り得た営業秘密等の有用な情報を、自己の利益を図り、又は雇用主に損害を与える目的で使用することは、許される自由競争の限度を越えた不法行為として、その行為は違法性を帯びる。

(四) 違法行為の内容

(1) 被告森口は、平成六年ころから、原告が設置・経営する村上整体学院及び原告が組織し主宰する全国カイロ師会の複製というべき組織を創り、村上整体学院、全国カイロ師会と競業する業務を行い、原告が享受しているカイロドクター養成事業を侵奪して、右複製というべき組織の設置者・経営者・主宰者として、自己のために不当な利益を得ることを企画した。

被告森口は、右企画を実現するため、被告永岡と共謀して、平成七年夏ころから同年一二月ころまでの間に、被告近藤、同鷺島、同小倉、同関根、同山崎、同南場及び同宮崎ら七名に対し、被告森口らが設置する学院の講師となり、カイロドクター養成事業に参加するよう求めた。これに対し、被告近藤ら七名は、右行為は原告の事業を侵奪し、原告に損害を加えるものであることを知りながら、宣伝用写真の準備、学校案内、入学要綱等の検討、新設学院のカリキュラムの検討、村上学園在学生に対する勧誘対策の検討等を行った。

被告森口が学院長、被告永岡が理事長となって、村上整体学院の複製というべき「日本カイロプラクティックドクター専門学院」(以下「日本CD学院」という。)を設立し、また、被告森口が会長となって、全国カイロ師会の複製というべき「日本カイロプラクティックドクター協会」(以下「日本CD協会」という。)を設立し、平成七年一一月一日にこれらを発足させて営業を開始し、被告近藤ら七名は、日本CD学院発足と同時にその講師又は理事に就任した。

被告遠藤、同川人、同矢野、同川田及び同佐藤は、日本CD学院の講師となり、又は、学生の実習受入れの施術所を提供することにより、被告森口、同永岡らの右侵奪行為を幇助している。

(2) 被告森口及び同永岡は、村上整体学院の生徒及び日本CD協会の会員を確保するため、本来営業秘密として非公知化を図り、秘匿すべき村上整体学院及び全国カイロ師会の名簿を盗用して、村上整体学院の学生及び全国カイロ師会の会員に対し、日本CD学院及び日本CD協会への加入を勧誘した。

(3) 被告森口は、平成七年夏ころから同年一二月ころまでの間に、村上学園及び全国カイロ師会の職員数名に対して、村上学園は原告のワンマン経営のため将来性がないこと、職員の待遇も劣ること等の虚偽の事実を告知して、被告森口らが設置する日本CD学院及び日本CD協会へ転職すべき旨の勧誘をした。その結果、全国カイロ師会の事務員関礼子は、平成七年一一月二〇日、退職して、被告森口らの職員として就職した。

また、被告永岡、同鷺島及び同関根も、前記勧誘に際し、原告が全国カイロ師会の財産を私物化している等の虚偽の事実を流布した。

(4) 被告森口らは、日本CD学院及び日本CD協会設立に際し、左記のとおり、原告が有するカイロドクター養成事業のために有用な技術上、営業上の情報を盗用した。

(ア) 養成所を「専門学院」と命名していること

(イ) 右学校は、「日本カイロプラクティックドクター協会」という、一見公益的な、第三者機関が公認する公認校であるという体裁をとっていること

(ウ) 生徒募集を、四月生と一〇月生の年二回に分けていること

(エ) アメリカの「ドクター・オブ・カイロプラクティック」に類似する「カイロプラクティックドクター」・「カイロドクター」・「カイロプラクター」を養成することを標榜していること

(オ) 独立開業できるように指導することを強調していること

(カ) 個人指導と実習のためのインターン制度を採用していること

(キ) インターン受入先として、学院内に治療所を併設していることを強調していること

(ク) カリキュラムの主題を、カイロドクターとして世の中に通用するための知識と技術を学ぶことを目的としていること

(ケ) ターグリコイル・ガンステッドテクニック・トムソンテクニック・SOTテクニック・AKテクニック・ローガンテクニックを各々選択科目としていること

(コ) 解剖・生理・病理・内科・免疫・衛生・運動学等の基礎医学、レントゲン診断学の各講座を開設していること

(サ) アメリカ研修の制度を取り入れていること

(シ) 日本CD協会が、開業相談や賠償保険の取り扱い等により、学生が卒業し独立開業して成功するまでをバックアップすることを標榜していること

(ス) 入学願書に身上調書を添付させて、「入学の目的」欄の記載を論文試験として使用すること

(セ) 昼間部と夜間部の二部制であること

(ソ) 修学期間を二年間としていること

(タ) 日本CD学院の学校案内に、村上整体学院が行っているアメリカ研修制度の際の写真や、全国カイロ師会から米国に派遣されたときの写真を掲載していること

(チ) インターン指定場所・受入先として、被告らが開設している施術所を掲載していること

(ツ) 学校案内に、次の各表示がなされていること

(a) アメリカのドクター・オブ・カイロプラクティックが、教授として授業をしているかのごとき誤解を生じさせる表現

(b) 被告らが開業している施術所が、日本CD学院の指導により開業したとの虚偽事実の表示

(c) 右各開業者は、日本CD学院の出身者であるとの虚偽の表示

(d) 日本CD学院の修了者は、「カイロプラクティックドクター」として、アメリカのドクター・オブ・カイロプラクティックと同レベルであるかのように誤認させる詐欺的表現

(五) 被告の責任

被告森口、同永岡、同近藤、同鷺島、同小倉、同関根、同山崎、同南場及び同宮崎らは、右のような違法な競業行為を行ったのであるから、右被告ら九名は、原告に対し、債務不履行ないし不法行為による責任を負う。

また、被告遠藤、同川人、同矢野、同川田及び同佐藤ら五名は、右各被告らの違法な行為を幇助したので、不法行為による責任を負う。

(被告らの認否)

(一) 原告の主張(一)のうち、原告が村上整体学院を設立したことは認める。原告がカイロ師資格の認定をしていることは否認する。

(二) 原告の主張(二)頭書のうち、被告らが、村上整体学院を卒業したこと、「整体院」「カイロプラクティックセンター」等の名称で施術所を開設していることは認める。原告からカイロ師資格の認定を受けたこと、その資格をもとにして、村上式整体療法の施術を業としていることは否認する。被告らが行っているカイロプラクティック療法は、約一〇〇年前に、米国で既に体系化されたもので、その療法中に「村上式整体術」というものが特に存在するということはない。

同(二)(1)ないし(14)のうち、被告ら全員につき、原告からカイロ師資格の認定を受けたこと、村上式整体療法の施術所を開設したことは否認する。

(三) 原告の主張(三)のうち、被告森口が、村上整体学院の学院長及び全国カイロ師会の理事であったことは認めるが、村上整体学院の学院長も、単なる名目上の地位であり、何ら経営上の権限はなく、被告森口は、平成七年一〇月二七日、村上整体学院を退職している。被告森口を除く右被告永岡ら八名も、有限会社腰痛センターに勤務し、又は村上整体学院に非常勤講師として勤務していたことは認めるが、非常勤講師といっても単にアルバイド的なものであり、原告と右被告らとの間には、競業避止義務、秘密保持義務等の生ずる内容の雇用関係はない。しかも、被告らが日本CD学院及び日本CD協会を設立、又はこれに参加したのも、有限会社腰痛センター及び村上整体学院を退任、退職した後である。

(四) 原告の主張(四)のうち、日本CD学院及び日本CD協会を設立したこと、被告森口が日本CD学院の学院長、被告永岡がその理事長に、被告森口が日本CD協会の会長となったこと、他の被告らが、日本CD学院の講師となり、又は、実習受入れの施術所を提供していることは認めるが、その余の事実は否認する。

被告森口は、原告の営業秘密等を盗用して、カイロプラクティック施術者養成事業を開始したということはない。カイロプラクティック施術者の養成事業を行う場合、カイロプラクティック技術及び専門家養成教育等の性格から、その事業活動上の名称、教育内容、活動内容等が類似するのは、極めて当然のことである。

本件で原告が問題にしている被告らの原告からの離脱・独立行為は、すべて原告の専門学校教育機関としての本旨に反する自己の営利のみを追求する、自己中心的な行動に追随できなくなったことに起因する。

2  損害額

(原告の主張)

日本CD学院及び日本CD協会によるカイロドクター養成事業により、被告らが得る利益は、次のとおりである。

学費 二年間で一人計一七〇万円

定員 昼間部五〇名

夜間部五〇名

一学年計一〇〇名、二学年で計二〇〇名

学費収入 二年単位で三億四〇〇〇万円

よって、原告は、三億四〇〇〇万円の損害を受けた。

(被告らの認否)

原告の主張は争う。

第三  争点に対する判断

先ず、被告森口、同永岡、同近藤、同鷺島、同小倉、同関根、同山崎、同南場及び同宮崎ら九名に対する請求について判断する。

証拠(甲一、六ないし九、一三、一四、弁論の全趣旨)によれば、被告森口、同永岡が中心となって日本CD学院を設立し、また、被告森口が中心となって日本CD協会を設立したこと、日本CD学院、日本CD協会がそれぞれ村上整体学院、全国カイロ師会と類似する営業活動をしていることが認められる。

しかし、右被告らの行為について、債務不履行ないし不法行為に該当し、違法であることを根拠づける具体的事実に関する主張がないのみならず、右の点を認めるに足りる証拠もないので、原告の請求は失当ということになる。

すなわち、原告は、前記第二、二1(原告の主張)(四)(1)の事実について、被告らが行ったとする、共謀行為の内容、宣伝用写真、学校案内、入学要綱等の検討、学生に対する勧誘行為等の具体的態様を、同(四)(2)の事実について、営業秘密の内容、名簿の盗用行為、加入の勧誘行為の具体的態様を、同(四)(3)の事実について、告知したとする虚偽の事実の内容及び行為態様を、同(四)(4)の事実について、技術上、営業上の情報の有用性、盗用行為の具体的態様を(及び、右(1)ないし(4)の態様につき、違法となる根拠を含めて)、弁論終結に至るまで、明らかにしないままに終始しているのみならず、立証も尽くしていない。

したがって、右被告らの行為は、債務不履行にも不法行為にも該当するものとはいえず、また、違法な行為ということもできないので、この点における原告の請求は失当として排斥されるべきである。

次に、被告遠藤、同川人、同矢野、同川田及び同佐藤に対する請求について判断する。

原告は、同(四)(1)の事実について、被告遠藤らが行ったとする、幇助行為の具体的態様を、弁論終結に至るまで、明らかにしないままに終始しているばかりでなく、立証も尽くしていない。のみならず、前記被告森口ら九名の各行為が違法なものと認めることができない以上、その幇助行為のみを違法であると判断することもできない。

したがって、右被告らの行為は、不法行為に該当するものとはいえず、また、違法な行為ということもできない。

以上のとおり、原告の主張は理由がない。

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 沖中康人)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例